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浦和地方裁判所 平成5年(ワ)214号 判決 1994年10月26日

原告

高松愛子

ほか三名

被告

君島健史

ほか二名

主文

一  被告君島健史は、原告高松愛子に対し、金六八五万四一四八円、その余の原告に対しそれぞれ金二二八万四七一六円及びこれに対する平成二年八月一〇日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告君島健史に対するその余の請求及び、その余の被告らに対する請求は、いずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告らと被告君島健史との間に生じた分はこれを一〇分し、その一を被告君島健史のその余を原告らの各負担とし、原告らとその余の被告らとの間に生じた分は原告らの負担とする。

四  この判決は一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告らは、原告高松愛子に対し、各自金三一三一万五六七〇円、その余の原告らに対しそれぞれ金一〇四三万八五五六円及びこれに対する平成二年八月一〇日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、被告新聞輸送株式会社(以下「被告新聞輸送」という。)に勤務する高松和宣(以下「和宣」という。)が、高速道路を走行中に、同じ被告新聞輸送に勤務する被告堀経夫(以下「被告堀」という。)の運転する車両が事故で停止しているのを発見し、被告堀に協力して右車両を動かそうとしていたところへ、被告君島健史(以下「被告君島」という。)の運転する後続車両に追突されて死亡した交通事故(以下、右の二つの事故をあわせて「本件一連の事故」という。)につき、和宣の妻である原告高松愛子(以下「原告愛子」という。)及び和宣の子であるその余の原告らが、本件一連の事故は、被告堀と被告君島の過失が重畳して生じたものであるとして、被告堀及び被告君島に対しては民法七〇九条、七一一条に基づき、被告堀の運転していた加害車両の運行供用者であり、被告堀の使用者である被告新聞輸送には、自動車損害賠償補償法三条又は、民法七一五条に基づき、連帯して損害を賠償するよう求めた事件で、原告らは損害として以下のものを主張した。

<1>  逸失利益 六七二六万五四四八円

<2>  葬儀費用 三二一万三六五三円

<3>  交通費 一万五一三〇円

<4>  雑費(遺体収容、葬儀、供養その他の費用) 一〇三万九三四一円

<5>  和宣の慰謝料 二五〇〇万円

<6>  原告ら近親者固有の慰謝料(合計) 一〇〇〇万円

<7>  弁護士費用 五〇〇万円

二  争いのない事実(証拠により認定したものについては、当該事実の後ろに証拠を挙げた。)

1  当事者

原告愛子は和宣の妻であり、その余の原告らは和宣の子である(甲一)。

2  本件一連の事故の発生

(一) 本件一連の事故の発生した現場(以下「現場」という。)は、千葉県習志野市谷津三丁目先東関東自動車道上り線(以下「本件道路」という。)五・四キロポスト付近路上で、湾岸習志野インターから四方約三キロメートル、湾岸市川インターから東方約四キロメートルの地点で、東関東自動車道の車線上である。

本件道路は現場一帯では片側三車線の、道路全幅が一三・〇メートルで、各通行帯の幅が三・五メートルの道路で、その右端にはコンクリート製、幅〇・五メートルの中央分離帯が、またその左端には幅員二・五メートルの路側帯が設けられている。

また、本件道路は、現場付近では緩やかな左カーブで緩やかに上つており、街灯が設置された明るいところで、カーブ先端までの見通しは良好で、最高速度は時速八〇キロメートルに指定されている。

本件一連の事故発生当時は、台風の影響で強い雨が降り、路面は濡れており、交通量は閑散で、一分間に五台の車両が通過する程度であつた(甲一四号証の五、なお被告君島は、カーブの先端までは見通せなかつた旨供述するが採用できない。)。

本件現場で行われた照射距離測定(天候曇り、時刻午前零時頃から同一時頃の間)によれば、前照灯を下向きにした走行自動車から前方に停止する無灯火の自動車を確認できる距離は約二一二メートルであり、側に立つている人間が人間らしいと判る距離は約六五・三メートル、人間だと確認できる距離は約四一・六メートルであつた(甲一四号証の一一)。

(二) 被告堀は、平成二年八月一〇日午前二時二五分頃、事業用普通貨物自動車(品川四四を二九二〇号、以下「堀車両」という。)を運転して、本件現場に差しかかつた際、運転を誤り、堀車両は中央分離帯のコンクリート壁に二度にわたり衝突して、第二通行帯と第三通行帯の一部をふさいで、進行方向とは逆に、車両の後部を前にして停車して動かなくなつた(この事故を以下「第一事故」という。)。

(三) その約五分後、和宣が被告堀と協力して堀車両を動かそうとして車両を押したりしていたところへ、本件道路を進行してきた被告君島が運転する自家用普通自動車(千葉五九て二五九九号、以下「君島車両」という。)が、堀車両に追突した(この事故を以下「第二事故」という。)。

このため、堀車両を動かそうとしていた和宣は堀車両と君島車両との間に挟まれ、約五五分後に、肋骨骨折、肺挫傷、両下肢骨折シヨツクにより死亡した。

3  事故処理の際の措置

被告堀は、第一事故を道路管理者に連絡せず、また、三角板(故障車両標示板)及び発煙筒を積んでいたにもかかわらずこれらを使用しなかつた。

4  損害の填補

原告らは、自動車損害賠償責任保険から四八九〇万二二三二円の支払いを受けた。

三  主たる争点

1  本件一連の事故の具体的態様。

2  和宣の死亡について、被告堀は被告君島とともに運行供用者責任を負うか。また、被告新聞輸送が使用者責任または不法行為責任を負うか。

3  損害額(過失相殺の有無を含む。)及び損害填補額

第三争点についての判断

一  本件一連の事故の具体的態様。

甲一四号証の一ないし一六、同号証の三五、乙七号証及び八号証、並びに被告堀、同君島の各供述(但し、被告君島の供述については、後に述べる採用できない部分を除く。)によれば、以下の事実を認めることができ、これを覆すに足りる証拠はない。

1  第一事故の発生

(一) 第一事故の発生した平成二年八月一〇日午前二時二五分頃の天候は、台風の影響で強い雨が降つていた。

被告堀は、時速約八〇キロメートルで第二車線を進行していたが、突然ハンドルを左にとられたため、慌ててブレーキを踏みハンドルを右に切つたところ、スリツプして車の後部が回転し、車両前部の左側が中央分離帯に衝突し、更に、車両後部の左側が中央分離帯に衝突して停止した。

停止したとき、堀の車両は第二通行帯の全部と第三通行帯の一部を塞ぐ格好で、車両前部が中央分離帯に対し斜めになつて、少し湾岸習志野インター方向(進行方向逆向き)に向いた状態だつた。

(二) 第一事故により、被告堀車両の左側の前照灯は壊れて消えたが、右側の前照灯はついていた。

被告堀は、車を動かそうとしたが、ギアが入らず動かなかつた。ハザードランプをつけて車を降り、衝突箇所を見たのち再び自車を動かそうとしたところ、第三通行帯を何台かの車が通過したので、後続車両の追突を防ぐため、自車の前に立つて、後続車両を第一通行帯と第三通行帯に分かれるように誘導した。(被告君島は、堀車両は前照灯が全て消えており、ハザードランプもついていなかつた、ハザードランプがついたのは衝突後である旨供述しているが、<1>第二事故が発生するまでの約五分間に通過した後続車両約二〇台は、いずれも、堀車両を発見し、徐行して進路を変える等の方法をとつて追突を避けていること、<2>被告堀は、事故直後自車の後ろに立つて後続車両を誘導していたが、自車右側の前照灯がついていたので追突される危険を感じなかつた旨供述しているところ、被告堀の右供述は具体的行動に基づくもので十分な合理性があること、<3>被告君島は、最初に被告堀の車両を前方に発見したとき、同車が自車と同方向に進行していると思つたとも供述しているが、もし、堀車両の前照灯が全て消え、ハザードランプも付いていない状態であつたなら、かえつて堀車両の異常に直ぐに気づくはずであり、テールランプの確認もしていないのに同車が同方向に進行していると思つたと供述するなど、同人の供述には矛盾があることに照らし採用できない。)。

(三) 被告堀は、通過する車が途切れたときにもう一度自車に乗り込んで動かそうとしたか動かすことができなかつた。

そのうち、第一通行帯を走つて来る後続車両の数台目に和宣の運転する車両を見つけ、車体の色から同じ新聞輸送関係の車であると思い、運転席から手を振つて止まつてくれるよう合図をした。

和宣の車両は、四、五〇メートルほど先の路肩に止まり、被告堀が駆寄つていくと、和宣も車を降りて事故現場に向かつて歩いてきた。そして、和宣が堀車両を押すのを手伝うからもう一度動かしてみようということになり、和宣が外で何度か車を押し、被告堀が運転席でギアを操作して協力して車を動かそうとした。

なお、原告らは、和宣が被告堀の手助けに行つたのは、被告新聞輸送から、第一事故現場に行つて被告堀を手助けするようにとの無線連絡を受けたからであると主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。

2  第二事故の発生

(一) 被告君島は、湾岸習志野インター方面から湾岸市川インター方面に向け、前照灯を上向きにして第三通行帯を走行中、前を走つている大型車が減速したため、これを追い越そうとして第二通行帯に車線を変更したところ、前方に、第二通行帯の全部と第三通行帯の一部を塞いで堀車両が停止しているのを認め、急ブレーキを踏み第三通行帯に戻ろうとしたが、折からの強い雨で車がスリツプして横滑りし、横向きになつたままの状態で道路上を滑走して、自車の左側側面部を堀車両に衝突させた。被告君島が衝突したのは、第一事故から約五分後、後続車両が二〇台位通り過ぎた後であつた。

このため、堀車両の側に立つていた和宣は、堀車両と君島車両との間に挟まれて、前記二争いのない事実の2(三)で述べた傷害を負い死亡するに至つた。

(二) 被告君島は、本人尋問並びに、実況見分の際の指示説明並びに、検察庁及び警察での取調べで、第二事故の態様につき、第三通行帯を走つていたが前に大型貨物が走つていたので左側に進路を変更し、第二通行帯を時速約九〇キロメートルで進行中、約一一五メートルほど先に堀車両を認めたが、同方向にゆつくりと進行しているものと誤信し、追いついたら追い抜くつもりで同車両の動静について注意を十分に払わないまま進行したところ、同車両に約七二ないし三メートルほどのところまで近づいた時点で同車両が停止しており、また、同車両の右側に和宣が立つているのに気づき、左にハンドルを切るとともに急ブレーキをかけたが、自車がスリツプして滑走し同車両に衝突した旨述べている。

しかし、右の供述は、既述のとおり、<1>堀車両は、右側前照灯とハザードランプが付いた状態で君島の方向に向かつて停止していたのであり、同方向に進行していると誤信するのは不自然であること、<2>現場の道路状況についての供述が、明るさ、力ーブの状態、見通しの状態等について、実況見分の結果と異なり、見通しが悪かつたことを強調するものであること等に照らして採用できない。

そして、甲第一四号証の四及び被告堀の供述によつて認められる前記(一)の認定に反する証拠はない。

二  和宣の死亡について、被告堀は、被告君島とともに共同不法行為責任を負うか。また、被告新聞輸送は使用者責任または運行供用者責任を負うか。

1  原告らは、第一事故の発生及び、第一事故発生後に三角板、発煙筒を使用せず、何ら後続車に対する危険回避措置を採らなかつたこと及び、そのような危険な状態の現場に和宣を呼びこんだことについて被告堀に過失が認められ、右過失と、被告君島の過失とが競合して第二事故が発生して和宣が死亡したのであるから、右被告両名の過失行為は共同不法行為を構成し、被告堀も和宣の死亡について不法行為賃任を負うと主張している。

2(一)  前記二2(一)で認定した事実及び争いのない事実からは、第二事故当時は深夜で強い雨が降つており、さらに被告君島の前には大型車が走つていたのであるから、被告君島には、追い越しの際には十分に前方を注意して、追い越しのために進入する通行帯の安全を確認する義務があつただけでなく、安全を十分に確認できない場合には追い越しを差し控える義務があつたものと認められる。

しかるに、被告君島は右義務を怠り、安全確認を十分に行わないまま追い越しをしたため第二事故を起こして和宣を死亡させたのであるから、和宣の死亡について、不法行為責任を負う。

(二)  前記二1(一)で認定した事実及び争いのない事実によれば、本件一連の事故の発生当時は強い雨が降つており、路面が濡れて滑りやすくなつていたのであるから、被告堀には急ブレーキをかけずに済むように十分スピードを落とし、スリツプを避けるように運転すべき義務があつたものと認められる。

しかるに、被告堀は、右義務を怠り、十分に減速せずに進行し、かつ、ハンドルをとられたときに急ブレーキをかけたことによつて第一事故を起こしたものであるから、同事故の発生について被告堀に過失がある。

また、被告堀は、第一事故後には、直ちに車を本線車道外に移動させることができなかつたのであるから、三角板を置いたり、発煙筒を使用して後続車両に対し本線車道に停止車両があることを事前に知らせる義務がある(道路交通法七五条の一一第一項、第二項)のにこれを怠つており、この点にも過失があると認められる。

なお、原告ら及び被告君島は、被告堀が、和宣を事故後の危険回避措置をとつていない現場へ呼び込んだことにも過失があると主張しているが、事故処理に手助けを求めること自体は違法な行為ではなく、危険回避措置をとらなかつた過失とは別に、右の行為についての過失を認めることはできない。

3  次に、被告堀に過失の認められる第一事故及び、第一事故発生後に三角板、発煙筒を使用せず、何ら後続車に対する危険回避措置を採らなかつたことと、第二事故及びそれによる和宣の死亡との間に相当因果関係があつたといえるかどうかを判断する。

(一) 前記一1(一)、(二)の事実及び争いのない事実によれば、第一事故がなければ和宣が被告堀の手助けすることもなく、第二事故も発生しなかつたと考えられるから、第一事故と和宣の死亡との間に条件関係はある。

そこで、次に第一事故と第二事故の発生及び和宣の死亡との間に相当因果関係が存するものといえるかどうかについて検討する。

(二)(1) 本件では、現場付近は夜間でも明るく見通しが良好なところであり、第一事故の発生から第二事故の発生までの間の約五分間に現場を通過した約二〇台の自動車の運転者が、全員堀車両が停止していることを発見して追突を回避する措置をとつており、被告君島が追い越そうとした大型車も、事故を発見して減速したものと推察される。また、第二事故の直後に現場に差しかかつたタクシーも、三角板が設置されておらず、君島車両のハザードランプがついていただけの状態で事故を察知して停止している(被告君島供述)のであつて、第二事故当時は夜間で強い雨が降り視界が良くなかつたことを考慮してもなお、被告君島が前方を注視し、通常の走行ないし運転方法をとつていたならば、第二事故の発生を十分回避することができた可能性が高いということができる。

(2) 一般的には、高速道路上において事故車両が通行帯を完全に塞いだ状態で停止している場合には、一般国道等普通の道路上における場合に比べて後続車両が追突する可能性が大きく、右の場合に三角板も発煙筒も使用されていない状況のもとでは、これらが使用されて危険回避措置がとられている場合に比べて後続車両が追突する可能性がさらに大きくなるといえるが、前記一2(二)の第二事故の発生態様に関する認定からすれば、被告君島は第三通行帯を大型車に追尾して進行中、同車が減速したので、その内側を追い抜こうと第二車線に進路を変更して、初めて堀車両を発見し、回避措置を取る余地もなく、第二事故を発生させているのであつて、第二事故の原因は、被告君島の降雨中における車線変更方法にあり、大型車を追尾していた被告君島にとつては、三角板や発煙筒の合図は第二事故回避には役立たなかつたものと認められ、第一事故及び事故後に危険回避措置がとられなかつたことと第二事故の発生との間に相当因果関係があるものとまでは認められない。

4  よつて、その余の点について判断するまでもなく、被告堀は、和宣の死亡について、被告君島と共同不法行為責任を負わない。

被告新聞輸送の責任は、使用者責任、連行供用者責任のいずれも被告堀が不法行為責任を負うことを前提とするものであり、かつ、被告堀の第一事故の発生及びその後の事故不回避行為を広く堀車両の「運行」と解しても、結局右同様、運行を和宣の死亡との間に因果関係がないか、又は、有意義な過失はないことになるから、被告新聞輸送が、右各責任を負うことはない。

三  損害額(過失相殺の有無を含む。)及び損害填補額

1  損害額(過失相殺後) 六三九七万六七二七円

(一) 逸失利益 六五三九万五三二四円

和宣は死亡当時四二歳で、死亡当時の就労可能年数は二五年である。本件事故時に最も近い平成元年の所得は、五三六万五〇三五円であつた。

以上をもとに、生活費及び中間利息(ライプニツツ係数を使用)を控除して逸失利益を計算すると、逸失利益は六五三九万五三二四円となる。

五三六万五〇三五×(一-〇・三)×一七・四一三一≒六五三九万五三二四

(二) 葬儀費用 一〇〇万円

原告が葬儀供養費用として主張するもののうち、本件事故と相当因果関係のある損害は一〇〇万円と認めるのが相当である。

なお、原告は、葬儀供養費用とは別に、雑費として遺体収容、葬儀、供養その他の費用を損害の項目として主張しているが、右費用は葬儀費用に含まれる。

(三) 交通費

原告が主張する交通費について、本件事故と相当因果関係のある損害と認めるに足りる証拠はない。

(四) 慰謝料 二五〇〇万円

和宣が一家の大黒柱であつたこと、その他本件に現れた全ての事情を考慮すると、慰謝料は和宣及び原告ら固有の分を含めて二五〇〇万円か相当である。

(五) 過失相殺 三〇パーセント

本件は、和宣が後続車両の追突を回避するために堀車両を動かそうとして作業をしている最中に第二事故に巻き込まれたものであり、後続車両の追突を回避するために堀車両を動かそうという和宣の意図自体は正当なものである。

しかし、和宣は、夜間で強い雨が降つており見通しが悪かつたにもかかわらず、何ら危険回避措置がとられていないことを知つた上で、高速道路上で事故車両の外側で車両を押すという方法で作業を行つていたのであり、このような危険の高い状況に自ら身を置いた不注意が和宣の死亡の一因(前述のとおり、事故発生の原因ではないが)となつたことは否定できず、右のような方法で被告堀と共同作業を行つていた和宣にも不注意かあつたと言わざるをえない。

よつて、損害の公平な分担という見地からは、右不注意を考慮し、三〇パーセントの過失相殺をするのが相当である。

2  損害の填補 五一五一万八四三一円

(一) 自動車損害賠償責任保険 四八九〇万二二三二円

(二) 労災保険 二六一万六一九九円

なお、原告らが支給を受けた遺族特別支給金三〇〇万円については、遺族見舞金としての性格が強く、損害の填補というよりは、社会福祉の増進の見地から支給されるという側面が重視されるので、これを損害の填補としては控除しないのが相当である。

3  以上までの損害の合計は、一二四五万八二九六円となり、右損害についての損害賠償請求権は、相続により、原告高松愛子がその二分の一を、その余の原告らがそれぞれその六分の一を取得した。

4  弁護士費用 一二五万円

原告らが、本件の訴訟追行を弁護士に依頼したことは本件記録より明らかであり、本件と相当因果関係のある弁護士費用分の損害は一二五万円と認めるのが相当であり、原告高松愛子がその二分の一を、その余の原告らがそれぞれ六分の一ずつを負担した。

以上より、原告らの損害の総額は一三七〇万八二九六円となり、原告高松愛子がその二分の一、その余の原告らがそれぞれ六分の一ずつについて損害賠償請求権を取得した。

四  よつて、原告らの請求は、被告君島との関係で、原告高松愛子につき金六八五万四一四八円、その余の原告につきそれぞれ金二二八万四七一六円と右各金員に対する本件事故の日である平成二年八月一〇日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判官 山﨑健二 川島貴志郎 渡辺真理)

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